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2009年7月 2日 (木)

応援席の気になる男(1)

「大学野球」(2009春季リーグ決算号)の17ページに、法政大学応援団の団長・田中貴大君が写真付で紹介されている。東京六大学史上初の「親子二代」の応援団長だそうである。
 かつて団長を務めていた父親は、利幸氏だという。「あっ」と驚いた。その利幸氏の下級生時代のことが、かすかにぼくの記憶にある。

 腕を組んだ息子さんの写真は、なかなかの男前である。父親の利幸氏もまた、良い男であった。二重まぶたで、西郷隆盛、あるいは武蔵丸に似た包容力のありそうな、一目見ただけで印象に残る人物だった。
 さすがに、団長を務めるだけの男は違う。ただし、現在の利幸氏についてはまったく知らない。学生時代で比較する限り、男っぷりは息子さんのほうが一枚上かな?(笑)

 久しぶりに、優勝の懸かった法明戦。見事、連勝で6シーズンぶりの歓喜を味わった法政大学。
 以前、このブログの記事で、試合終了後の「学生注目」で言葉を詰まらせていたリーダーがいた、と書いたけれど、この田中団長だったかもしれない。
 春季リーグの開幕日前日、法大野球部グラウンドを訪れた田中団長は、金光監督、石川主将らナインを前に必勝のエールを送ったという。異例の出来事だったそうだ。

 記憶に間違いがなければ、父親の利幸氏の団長時代にも、法政は優勝を果たしたのではなかったか。
「学生注目」時の涙は、団長として父親と同じ目標を果たした責任感も含まれていたのかもしれない。

 ――――――――――――――――――――

 今日(7月2日)のNHKの「クローズアップ現代」に、盲目のピアニスト、辻井伸行さん(20歳)が出演していた。
 米国のバン・クライバーン国際ピアノコンクールで第1位となった後、ドイツでの演奏会の模様が映し出された。

 ドイツに何人か呼ばれた演奏家のうち、辻井さんの演奏会入場料は最安価の約3000円。コンクールで優勝したとはいえ、まだまだ無名なのだ。
 小さなホール。リハーサルに訪れた辻井さんは「小さい(ホールだ)ね」とつぶやく。大きなホールとはまったく響きが違い、ピアノを奏でるまでもなく、自分の足音でホールの器がわかったようであった。

 米国とは違って、ドイツの聴衆の耳は肥えている。それを知っている辻井さんは、緊張していた。
 観衆の中には、辻井さんにはそれほど期待を持っていなくて、「友達が行けなくなったから、代わりに来た。大した演奏でなければ、すぐに帰る」と言う人も混じっていたくらいだ。

 介添えの人と舞台に出て行き、ピアノの前に座る。しかし、緊張からなかなか弾きだすことができない。
 緊張を抑えるために、ハンカチで鍵盤を拭い、気息を整えたほどだった。

 しかし――。緊張などかけらも感じさせないほど滑らかに、演奏が始まった。始まってしまえば、もう辻井氏の世界である。体を大きく揺らしながら、鍵盤を愛しむ。
 聴衆の表情が変わった。何度も頷く人。微笑む人……演奏が始まる前とは、明らかに雰囲気が変わった。

 数曲を、辻井さんは弾き切った。沸き上がる拍手。極東の小国からやってきたピアニストへの惜しみない賞賛の嵐だ。
 舞台に出てきたときと同様、介添えの人と舞台袖に下がる辻井氏。舞台の扉が閉じられる。

 そのまま楽屋に戻ろうとするが、立ち止まって耳を澄ますと……拍手が鳴り止んでいない! 演奏者にとって、こんなに嬉しい瞬間はないに違いない。
 辻井氏は、自ら舞台に出て行き、アンコール曲を弾いた。用意していなかったので迷ったようだったが、優勝したコンクールで演奏して一番盛り上がった曲を弾いた。
 弾き終わった辻井氏に、スタンディングオベーションが待っていた。

 ――――――――――――――――――――

 辻井さんが優勝したバン・クライバーン国際ピアノコンクールのある審査員の採点紙には、文字が書かれていなかった。白紙である。こんなことはありえない。辻井さんの演奏があまりにも素晴らしく、思わず聴き入ってしまったのだという。
 普通、コンクールに出てくる若者はやたらと音が大きかったり、これでもかとテクニックに走って演奏が速くなったりするのだそうだが、彼の演奏はそのような無用に誇張する部分がなく、自然に、ゆったりと、心地よく響いた。最近では珍しいことだそうである。

 辻井さんは、これから内外での多くのコンサートを通じて、名声を高めていくことになる。
 まだ20歳の若者である。番組の中で本人は、「音楽以外のいろいろな経験をしたい」と語っていた。

 辻井さんには、「恋」をしてもらいたいと思う。いや、プライベートのことは何も知らないから、もしかしたら今だって恋をしているかもしれない。もしそうなら、これからもっとたくさん恋をしてほしい。
 人は「恋」をすることで変わる。世界が一変する。(そんな経験は皆さんもお持ちでしょう?) 両想いでも、片想いでもかまわない。たとえ悲恋だとしても、マイナスになることはない。そうした経験が、彼の音楽により一層の情感を加えることになるはずである。
                          (谷川彬良)

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コメント

谷川様こんばんわ

辻井さんのCDを聴きながら通勤しています。音楽的なことは分かりませんが、本当に素晴らしいなと聴きいっています。オリジナル曲も素敵でした。ゆったりと明るく、偏りや力みがなくて、聴いてると凝りがほぐれる感じです。辻井さんの無垢な魂は私たちには見えない何かが見えるのかもしれませんね。
それにしても、お母様の顔を見たいという夢、ほんとに切ないです。
私もたくさんの恋をした辻井さんの演奏をいつか聴いてみたいと思います。

メルシー様

 こんにちは。コメント、ありがとうございます。
 辻井さん本人も、ご両親も、たくさんの苦労があったのかもしれませんが、お互いに支え、支えられ、よくぞ一流の音楽家に成長したものだと思います。強い「家族愛」を感じます。
 ご通勤の際に、辻井さんの音楽を聴かれるとのこと。仕事でいやな事があっても、ふと安らぎを与えてくれそうですね。
 きっと、辻井さんはモテる男でしょうから、素敵な恋をしてくれることでしょうね。彼の演奏にさらに“艶”が加わるのでは、と期待しています。

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